石鹸の香り


石鹸の香り  柴田麻那美


 理想の女性は?と聞かれて、”石鹸の香りのする女性”と答えたのは、今は亡き、俳優の石原裕次郎さんだった。


 白粉や香水の持つ華やかな香りと違い、清潔なすがすがしい、さっぱりとした石鹸の香りは私も大好きです。それにしても性質や状況を端的に表現できるほど「香り」の持つ意味は以外と大きいと思います。


 例えば、夜道で人に会えば、ちよっと怖くて警戒しがちですが、すれ違いざまにフワリと石鹸の香りが漂うととたんに緊張がときほぐれ、ほっとします。お風呂屋の灯りが向うに見えはじめ「お風呂屋の音と匂い」が近づいてくると、
なんだかなつかしい風景のようで゜、さらにほっとします。


 お風呂屋の玄関を出て、湯上りの上気した頬をなぜて吹いていく風は、その季節によってさまざまな香り、匂いを運んでくれます。


 沈丁花や金木犀の花の香りだったり、近くを流れる用水の水と草の匂いだったり・・・・、わけても好きなのは樹々の葉がせめぎあうようにビッシリ繁って濃厚な香りを発する新緑の頃。


 お風呂からの帰り道は、星空を眺めたり、野良猫に話しかけたり・・・・そんな時、自分の洗い髪の香りが、ふと辺りに漂い、それが又、一段と気分が良く、今はやりの森林浴・健康ウォーキング・心を癒すアロマテラピー・・・・と体にい
いことをさりげなく、自然に取り入れてる、こういう日々がけっこう気に入っています。人工的なものが多く、繊細さ、微妙さ、自然のままのものとかを日常生活の中で感じることが少なくなっているので、季節感とか、伝統、しきたりなど
古くても伝えてゆきたいよいものは億劫がらずに残していかなければと思っています。