銭湯のやさしさ 仙田常次郎
銭湯の中には独特のやさしさがある。一つは当然の湯の温もりで、体にも心にもやさしい。又一つは交わされる会話にある。
先客「やあ高岡はん、こられましたがけ・・・」
後客「やや、ちょっと仕事がはかいきまして・・・」
先客「そうけ、そうけやんばいな・・」
後客「加減などうですけ」
先客「やや、上等ですちや」。
方言まるだしの中に気配りがあり、やさしさが籠る。
更に情報交換にあるやさしさである。
A「やあ、三上はんな近頃、顔見せはらんがでないけ?」
B「そんながで・・・実は三日前、市民病院に見舞に行って来たがですちゃ」
A「えっ、そりゃまたどこが悪いがやら・・・」
B「ちょこちょこと胃切らはったんで・・・」
A「や、やそんながけ・・・ちょっこしも知らんとおって・・・」
恐らく翌日にはAさんは、お見舞にかけつけたに相違ない。Bの表現には見えないやさしさが滲んでいるのである。
流し合う情景は女湯に盛んのようだが男湯にも珍しくない。
C「富山はん、あっち向かれまん、一流し、さしてくだはれ・・・」
D「やあこりゃ立山はん、気の毒な・・・」
そして背中を主に流し終ると「やぁお世話さまな、こんだ、おらに・・・」という具合で交替して行われる次第であるが、このスキンシップには実に多量のやさしさが惜しみなく発布されるのである。
こうして、銭湯は日本に持続され、継承されてきており、恐らくその良さは自覚するしないに拘わらず永続するに違いあるまい。