きれいなお姐さん(花街の銭湯) 西野 祐子
銭湯といえば、まっ先に浮かんでくる光景があります。
その頃の銭湯はいつも混んでいたけれど、不思議に客が途絶えたある昼下がり、昨夜の落としそびれた衿おしろいが白くてなまめかしい芸者さん(?)が、あたりに湯が飛び散らないように肩から手桶の湯を静かにかけ、体を洗っています。きれいな顔立ちときめの細かい肌に、もの静かな身のこなし、憧れやら好奇心がない交ぜになって、ただただ見とれていたものでした。
お姐さんの座るカランの上には「木札」が置いてあって、やがて洗い場に銭湯の若い衆が釜場の方から入って来て、「木札」のお姐さんの背中を洗い始めます。その手際のよさ、リズミカルな体のこなし、これにも又、見とれてしまうのです。自分がお風呂に来ていることも忘れて、ぼーっと見つづけ、母にうながされてやっと湯に浸かり「百」まで唱えさせられて、ゆでだこのようになっていた幼い私も同時に思い出されます。
銭湯の若い衆(といっても小父さんでした)とは、俗に言う三助さんで、今はもう無くなった職種の一つでしょうが、なんと情緒のある時代だったことか。だからといって復活されてもちょっと困るかもしれないけど・・・。
銭湯で顔見知りになった裸の友たちと女同士、ドキドキはないけど和気あいあいと背中を流し合い、楽しい入浴タイムを過ごす現在から、あの時代・あの光景を瞬間、タイムスリップして思い出に浸りました。