銭湯についての記 嶋 信子
私が嫁ぐ数日前、母が言いました。
「街の銭湯へ行ってこよう。」・・・・・
「えっ。」耳を疑う位びっくりしました。私は山育ち自宅の風呂以外入ったことがない、そんな私が銭湯に嫁ぐことになったので母は心配でたまらなかったのだと思います。
湯上げタオルをはじめ風呂用具をまとめてバスに乗りました。田舎の保育園に勤め子供たちとのびのびと生活していたのに、銭湯って全然知りませんでした。内心ドキドキでした。昼の銭湯は明るくてとても気持が良かったです。母はていねいに体を洗ってくれました。
ふだん自宅では二人きりで入ることなく、次々と順番に入っていたのに、何とのんびりとしていい時間を過ごせたことか、そして母を一人じめ出来たこと、とてもうれしかったです。
それから35年・・・・私はそれ以来ずっと番台に座っています。お姑さんと共に交代でやってきたけど今はお姑さんも年をとって、座れません。
35年の長い歴史、いろいろのことがありました。今では、各家庭にお風呂がありお客様も少なくなり大変さみしく思いますが、いつも来てくださる常連様とのお顔を見るのがとっても楽しみです。今はどこの公民館でも○○サロンと言って一人暮らしの人とかお仕事を定年になられた方々が集まりお茶を飲んで談笑することがさかんに行われています。
この志満乃湯も毎日数人の方々が風呂上りの一時を楽しく話し合って「はだかのつきあいサロンだね」とよろこんでいらっしゃる姿を見てとてもほほえましくうれしく思います。
「あ~、けっこうやったね、明日又こんなんね。」
と言って下さる言葉が一番うれしいひとときです。昔母と一緒に入った銭湯の思い出が今ふと脳裡をかすめ実家で元気に過ごしている母に、思わずありがとう、元気でね・・・と言いたい気持ちです。
この時代いつまで続くかわからない銭湯ですが、一日一日を大切に、お客様に接していきたいと思います。